2013年11月11日月曜日

あなたのビジネスモデルは9つの質問に答えられるか

儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書/川上 昌直 

しばらく前に、ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書がすごく流行ったことがあった。項目が階層化されていないことと、網羅性を感じられないことから中々頭に入らず、なんだかすごく気持ち悪い思いをしたことを覚えている。イラストとかキャッチーで素敵な本なのだが、ロジックが何となく甘い本だ。


その点、この本はその気持ち悪さがない。加えて、別のビジネス書が一冊を使って説明しているようなことを、さらっと加えてさらにそれをビジネスモデル全体の中に位置づけまでされている。今までのところ、ビジネスモデル関係の本の中では最も分かりやすい本だった。よく言われていること、既に知っていることも含めて改めてメモしておきたい。


<顧客はドリルを買っているのではなく、穴を買っているのだ>
顧客価値を考える時にニーズに着目するのではなく、「片付けるべき用事;job to be done」に着目すべきだとしたクリステンセンの言葉はよく知られている。では、なぜニーズに着目することがだめなのだろうか。
ニーズをベースとして商品開発や提案を考えると、「現在流行っているもの」に軸を置いて、 それと同じようなモノを探してしまいます。視野を狭くさせ、もったいない結果を産みます。 短期的にほ当たる確率か高いでしょうが、すぐに飽和するでしょう。なぜならば、みんなが同じようなものを考え、生み出し、世の中に送り出す結果、提供できる数(供給)が、求められる数(需要)に追いついてしまうからです。そうして生まれてきた商品はどれも似通っており、いわゆる「同質化」が避けられなくなります。つまり、ニーズでモノを分析する以上、「差別化」ができなくなるのです。(P31)
*トロントのラーメン市場は上記のような状況に近くなっていて、猫も杓子もラーメンを売っている。お寿司屋さん、居酒屋、Phoのお店等々。AOK foods の閉店がラーメンがもはや「トレンディ」なものでなくなっていることを示唆しているような気がする。

筆者はビジネスモデルを構想するにあたっては、習熟度の高い経営者ほど無意識に下記の質問にきちんと答えられるほどの熟慮を重ねているという。


<9つの質問>

1. どんな用事を抱えている人をお客様にするのか?
2. 解決策として何を提示できるのか?
3. どのように提案するか?
4. 誰から儲けるのか?
5. 何で儲けるのか?
6. どのようなタイミングで儲けるのか?
7. どのような手順でやるのか?
8. 手順の中で何が得意なのか?
9. 誰と組むのか?

上記を構造化すると下記のような図(図1)になる。この本の良さは、この9つの質問を縦軸は「顧客価値」「利益」「プロセス」、横軸は「who」「 what」「 How」として構造として表現してくれているところだ。たとえば、上で紹介したBusiness Model Canvasでは下記の9つが構造化されずに、何となく近いものが近くに配置されたCanvasとして提示されている。個々の項目がビジネスモデルを考えるにあたって重要なものであることは間違いがないが、網羅性が感じられず、なんとなく「それだけでいいんだっけ?」と感じてしまう。


①顧客セグメント(Customer Segment)(1.)
②提供する価値(Value Proposition)(2.)
③チャネル(Channel)(3./7. /9. )
④顧客との関係(Customer Relation)(3./9.)
⑤収入の流れ(Revenue Stream)(4. /5. /6.)
⑥主なリソース(Key Resource)(≒8. )
⑦主な活動(Key Activity)(9.)
⑧パートナー(Key Partner)(7.)
⑨コスト(Cost Structure)(4. /5.)


無理矢理今回の本のモデルの項目と関連づけようとすると、上記のような感じか。( )内。


【図1】


<利益の設計>

さて、上の図で真ん中に「利益」の部分(赤でかこった部分)についてもう少し考えてみよう。この利益部分の設計はおそらく筆者が最も伝えたかったところではないだろうか。
商品単体やサービス単体で、欲しい利益率(マージン)を達成できる企業は、ほんの一握りです。今では新興のベンチャーが、それを逆手にとったかのように、「フリーミム」や、「サブスクリプション(定額制」、さらには「カミソリの刃モデル」といった利益のつくり方(課金パターン)を創造し、マーケットの構造をガラリと変えています。これらの課金パターンは、よくある一過性のキーワードのような印象も受けます。しかし、注意深く観察すると、「損して得とる」「どこで儲けてどこで儲けないか」といった、利益の設計思想を読み取ることができます。 それこそが、ビジネスの本質です。かたくなな「単品での利益収穫」の幻想から抜け出して、新たなビジネスモデルを生み出す、重要なポイントなのです。(P8)
※これを考えた時に、従来の飲食業のモデルはほとんどが「売り切り」の「同時に課金する」仕組みになっていることが分かる。このモデルで行く場合、この本が説明するような従来の飲食業の事業構造となる。

筆者が伝えたいのは「全ての顧客から儲けようとせず、また全ての商品で儲けようとせず、さらに場合によってはすぐに儲けようとしないことが成功の秘訣だ」ということだと思う。


*飲食業では昔からメニューを「定番」「看板」「金庫番」で構成することが定石とされている。これも上記と同じで、顧客を引き寄せる「看板」メニュー(ただし、原価率が高く持ち出しになったりする)と、その分の利益を挽回する「金庫番」(異様に原価率が低かったりする)及び、安定的に利益を確保する「定番」で構成することで、「客引き機能」と「利益創出機能」をメニュー自体に持たせようとする試みだ。

これは言い換えると商品やサービスそのものや、その特性の中に「顧客を惹き付ける」要素と「利益率が高く儲かる要素」が両立して存在したほうがいい、ということだ。当然、その場合はモデルに複雑さが増す。図2のように、顧客ミックスやマージンミックスを考えた場合、儲けるものと儲けないものの間の役割や割合に思いを巡らす必要がでてくる。また、フリーミアムなどの時間差があるキャッシュポイントを持つ場合、収益が出ない間の資金繰りについて考える必要が発生する。


【図2】

※1; 本文P157の図は図1と向きが逆になっているため、図1と合わせるために縦と横を入れ替えた
※2; 網羅性を出すために「事前」を付け加えた

<強みとは何か>
自社の強みの分析について、SWOTでもバーニーでも使いながら分析してみて「なんだかなー」という感想を持ったことがある人はいると思う。この点について下記の記述はとてもすっきりした。そう、ベンチャーに強みなんて、もともとないのだ。
一般的なチャレンジャーに言えることはVRIOに適うリソースはほとんどもっていないということです。では、もしあなたの会社がVRIO分析の結果、「強みがない」と判断されたらどうすればよいでしょうか。答えはひとつです。今後の努力によって、VRIO全部において評価が「○」に変わるようにリソースを強化するのです。では、どうすれば「○」に変わるのでしょうか。「弱み」と判断されたリソースで戦うには、どうすればよいか、その策を講じていくことがブランドカをもたない企業にとって必要なことです。(P187)
上記において、下記二つについてはしっかりと頭に入れてモデルを考えていきたい。
1. 今後の努力によって、VRIO全部において評価が「○」に変わるようにリソースを強化する
2. 「弱み」と判断されたリソースで戦うには、どうすればよいか、その策を講じていく

※ちなみにバーニーについては、下記の本でさらに深いアカデミックな議論がされている。興味がある人は読んでみるとよいと思う。


世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア /入山 章栄

<各施策の整合性の大切さ>

また、著者は各要素の整合性の大切さも説く。これはコピーキャットの最も重要な主張の一つと同じだ。

コピーキャット: 模倣者こそがイノベーションを起こす/オーデッド シェンカー


<時間軸の重要性>

また、Business Model Canvasと比較して非常に優れていることの一つに、時間軸の概念が厚く入っていることがあるが、これは成功を決める順序の経営とかストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)に書いてあることとつながる。

<ベンチャーである事を生かす>

そして最後に、チャレンジャーであることを生かすための戦い方について紹介がされている。
①顧客価値提案から始める
顧客価値のWho-Whatと利益のWho-Whatの関係が問題になりますが、この2つが同じであるときは、商品やサービスが相当に強くないと戦えません。そのため、利益のWho-Whatを顧客価値のそれとは違ったものにすることが有効です。最終的には、主要な顧客が商品・サービスを使っているだけなのに、会社はきちん,と儲けることができるという状態であることが望ましいのです。(P208)
②売り切りをしない 
 チャレンジャーは研究開発費もマーケティング費も圧倒的に少なく不利ですからフローを生みながら、自力成長していくには、サービス部分を拡大していくのが有効です。商品そのものではなく、購入前後に発生する顧客の未解決の用事。サービス業であれ、製造業であれ、小売業であれ、この視点をもてば差別化が可能になり、さらには課金も可能となります。(P208)

③すべて自前で賄わない
 資本の節約のため以外にも、新しいビジネス創出のきっかけにもなりうるので、他社と恊働し、オープンにビジネスモデルを設計していくほうがよい、としている。

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