2013年6月27日木曜日

「事業会社の始めた投資組合はカスなので組まないほうがいいよ」

ユニオン・スクエア・ベンチャーズ創業者の一人であるフレッド・ウィルソンがCVCからの投資を如何に避けるべきか、についてインタビューの中で熱く語っている。彼のブログはVCの現場に近い小さな気づきがたくさん書いてあって、とても勉強になる。ユニオン・スクエア・ベンチャーズはニューヨークにあるVCでNYのテック系ベンチャー生態系の中心的な存在だ。過去に投資した会社はTwitter, Tumblr, Foursquare,Zynga, Kickstarter,10genなどがある。


かなり簡単にだが、訳をしてみた。(急いでやったので間違えがあるかも)

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「僕もあれからいくつか失敗をしてきた。たとえば、事業会社の投資組合と一緒に投資するとかね。絶対、絶対、絶対、絶対、死んでも、なにがあっても、どんなことがあっても彼らと一緒に投資しちゃいけない。絶対だめ。」


「何があったの?」

「彼らは使えないカス(Sucks)なんだよ。彼らは(投資先の)会社の成功にも、起業家の成功にも興味がない。企業は彼らの利益を最大化するために存在する。彼らは絶対によいメンターにはならない。それは彼らのDNAの中にはない。だから彼らは投資家としては使えないカスなんだよ。
ただ、インテルやGoogleは事業に対してVCに近いアプローチを取るやり方を取っているので、彼らは大丈夫かも知れない。特にGoogleは優れた共同投資者になれると思う。そんなにたくさん一緒にやったことがある訳ではないけど、Googleは『よいベンチャーキャピタル』と似たような行動様式を持っていると思うよ。
でも総じて事業会社は、とても悪いパートナーだと思う。彼らはあなたの会社に投資すべきではない。事業会社はエグジットの対象であるべきで、投資家としてパートナーシップをもつには適していない。」

「でも何があったの?何か特に嫌な経験でもしたの?」

「たくさんね。言わないけど(笑)。でもたくさんの起業家が言うんだよ。『XYZ株式会社からすごいよいバリュエーションをもらった』って。でもそういう時は僕は必死で『そんなことさせない』、と止めることにしている。もし君がそれをするなら僕は抜けるよ、とね。事業会社の投資組合とは、何度も何度も、継続的に嫌な経験をしたんだよ。以前は、『わかったよ、そんなにやりたいならいいよ?』と応えていたけれど、そしたらまた嫌な経験をしたんだよ、何度も。」

「あなたはあなたの仕事に対して、それだけ強烈な思いを持っているわけだけど、起業家がそれに同意しなかったらどうなるの?」

「もし、自分がやりたいやり方と起業家のやり方が違った場合は、僕らの側がそれを受け止めるしかないと思ってるよ。僕の会社ではないからね。僕のパートナーたちはみんな、実際に実務を行ったり、スタートアップで働いたことがある。これをやらないと、学習のスピードもずいぶん遅くなる。ただ、ひとつだけこれをやらないことのメリットがあるんだ。僕は自分の会社を経営したことがないし、これからする予定もない。だから、どんな分野の仕事であってもその会社のCEOより自分の方がうまくやれると思ったことがないんだ。あくまで「自分は」だけど。他の人がやったらもっとうまくやれるかもしれないけれど、僕自身はできないと思っている。でもVCの中には『自分だったらあの人の仕事をもっとうまくやれる』といつも言う人がいる。でも、ほんとはそれが混乱の素なんだよ。もし、あなたの会社のボードメンバーの一人が自分より自分の仕事をうまくやれる、なんて思っていたらよくないよ。だから僕がキャリアの中でスタートアップの実務的な仕事をしてこなかったことのメリットの一つは、CEOのやっている仕事に対して大きな敬意を払えることだよ。個人的に自分の方がうまくやれる、とは感じないんだ。」
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CVC(コーポレイト・ベンチャー・キャピタル)の手法は、最近では日本でも大手ネット系の会社を中心にかなり盛んに行われている。

大企業側からのメリットの一つは、内部の経営資源を外部化(企業内起業と呼ばれたりする)することで意思決定のスピードを上げたり、経営者人材を育成しながら新規事業に取り組むことができることである。二つ目のメリットは外部ベンチャーに対して投資家として参加することで、ベンチャーが持っているテクノロジーと自社の事業とのシナジーを狙ったり、あるいはアイディアやテクノロジーそのものを会社の中に取り込んで行く事ができる。アメリカではこちらの方が多い。


ただ、これについては賛否両論があってアメリカーのベンチャーキャピタリストを紹介した

アメリカを創ったベンチャー・キャピタリスト―夢を支えた35人の軌跡 (Harvard Business School Press)」では下記のように説明している。

 アメリカを創ったベンチャー・キャピタリスト―夢を支えた35人の軌跡/ウダヤン グプタ


大手企業が新製品を開発したり、新たなテクノロジーを取り入れたりする場合、従来は買収か事業構築しか選択肢がなかった。昨今の革新的なハイテク企業にとって、この買収と事業構築とは、かつて流行った方法とは異なり、企業系ベンチャー・キャピタルとして投資し、新興企業のテクノロジーや製品を市場に流通させることである。(P48) 
そもそもシスコのような大手企業にベンチャー投資が向いているのか、どう投資していくのかという疑問には、いまだ答えが出ていない。コンピュータ・アソシエイツやシスコは、製品目当てに企業を買収し、製品開発に尽力した従業員をないがしろにすることが多いという見方もある(P49)
フレッド・ウィルソンは事業会社の経験がないので、偏っているところもあるかもしれないが、CVCに投資をしてもらう時のベンチャー側のリスクにどんな事があるのか考えてみよう。

<CVCからの投資を受ける際に発生しうるリスク>

1. 担当者の不適切なインセンティブ(そもそもちょっと曲がってる可能性)
 この場合、大企業側の担当者のインセンティブはどうなっているだろう。大きくは二つあるだろう。一つはその会社の価値を上げること(=投資先と共通)であり、2つ目はその会社のテクノロジーを介した本業あるいは他部門の事業とのシナジーの構築である。1つ目が主眼になっているような評価制度が適切に運用されていればいいが、2つ目が担当者の意思決定に影響してくるようだと、投資先にとって不利な意思決定がされる可能性もある。

2. 企業担当者の異動のリスク

 大企業の社員は異動することがある。そしてその度に投資の方針が変わって、投資そのもののステータスが不安定になったり、介入の仕方に差が出たり、ということへの対応を迫られる可能性がある。DeNA創業者の南場さんが書かれた不格好経営―チームDeNAの挑戦でも、下記のような記述がある。
 なんの寄る辺もなく起業する者は、有名な大企業のサポートをとても心強く感じてしまいがちだ。けれども、大企業を大株主に迎える場合、状況は変わりうる、という当然のことを頭に入れておく必要がある。大企業にはそれぞれ株主がいて、そこからのプレッシャーも大きい。当然こちらを向いて仕事をする人たちではないし、そうであってはならない人たちなのだ。あちらも変わればこちらも変わる。支援の内容や有用性、株の保有意向など、不変のものなど、ひとつもないのである。(P91)
 3. アイディアだけ取られる可能性
 純粋なVCと違って、事業会社は実業を持っているので、得たテクノロジーをすぐに自社の事業に展開しやすい。実際にこれをやられたベンチャーがあって、アメリカでは訴訟に発展したケースもあるようだ。ただ、大企業側からしても市場でこんなことをやる会社だと思われてしまうと、次の出資のチャンスでは有望なベンチャーであればあるほど避けるだろうから、不利になってしまう。日本でもあるのかも知れないが、ベンチャー側が泣き寝入りしてそうだな。日本でこのテーマで訴訟を起こしたら、ベンチャーファイナンス界隈の人たちから敬遠されてしまうかもしれない。

4. 大企業のやり方を押し付けられる可能性

 大企業は意思決定や実行のスピードを上げるために、ベンチャーへの投資を進めるのだが、その業務運営のやり方もベンチャーに合わせたものにする必要がある。そうなっていない場合、ベンチャーであるのに大企業の業務遂行スピードの影響を受けるようなことが起こりかねない。

個人的には、インタビューの最後の「CEOのやっている仕事に対して大きな敬意を払える」ことを自分の強みだというフレッド・ウィルソンの言葉が心に残った。


 アメリカを創ったベンチャー・キャピタリスト―夢を支えた35人の軌跡/ウダヤン グプタ


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