2013年5月9日木曜日

何かを成し遂げるにはパワー(権力)が必要。

影響力のマネジメント /ジェフリー・フェファー

この本は就活生に薦めたい。会社に入る前に読んだら良い本だと思う。もしくは、新入社員や入社2〜3年目までの若手の人たち。あなたが大企業に入ったとして、何十年後かにその会社の社長になる確率は最初の配属部署によって影響されるだろうか?


答えはイエス、である。そしてこのことはしばらく社会人をしていれば肌で感じて理解をすることになる。当然、これだけが影響する要素ではないが、一定の影響を与えることは確実だろう。また、環境変化により一つの会社の中で儲かっていた事業部(政治的パワーが高い)が転落し、他の事業部が台頭することも現在では珍しくない。その場合、パワーの源泉はそこに移る。



組織を導くために、大義やミッション/ビジョンはおそらく最も大切なものだろう。なぜならそれはその組織の存在意義を定義するものだからだ。一方で、ミッションやビジョンだけで会社が経営できるわけではないし、大企業で自分の意思が仕事に反映しやすい上層の役職につけるわけではない。「ビジョンや夢を信念をもって思い続けることが、世界を変えるためには必要だ」という言説は毎日ウェブ上で毎日流れてきて目にするわけだけれど、それは必要条件ではあっても、十分条件ではない。あなたが世界を変えたいなら、人や組織に対して影響力を発揮するための「パワー」についてよく考え、よく振る舞い、それを手に入れる必要がある。ビジョナリーである必要はあるが、その影響力についてナイーブすぎてもいけない。
革新はほとんどの場合、現状を脅かすため、必然的に政治的な活動になるのだ。物事を成し遂げたり、構想をもったり、決定を実行するという能力の欠如が今日の組織に蔓延している。—この実行力とは、政治的な意思と専門知識を育てること、つまり、反発があろうとも、物事を成し遂げようとする強い意欲、およびその実現を可能にする知識とスキルを育てることにまつわる諸問題であり、本書の主題となる。(P8)
たとえば、決定に対するサブユニットや個人の影響力は次の事柄の相関で決まるとしている。(P82)
1. 組織が直面する不確実性の種類
2. 組織の不確実性を低減できる特定の性質や能力
3. 特定のサブユニット・個人がどれくらいその特性を持っているか

バブル期の大手銀行では優秀な人が人事部門に配属された。これが就職氷河期になると人事に配属される人は「普通の人」になっていった。労働市場の変化により、新卒採用という課題における不確実性が減ったからだ。


<パワーの源泉>

では、パワーの源泉として他にどのようなものがあるだろうか。
1. パワーの源は個人属性より先に権威付け(職位など)がくる
2. 組織構造のどこにいるかはパワーの源の一つである。

サブユニットのパワーは下記3つから生まれる(P171)

1. 統一性を持つこと/一貫した形で行動する能力を持つこと
2. 重要課題の近くにいること
3. 上記課題を解決する能力があること(専門知識や問題解決能力)

3. 同盟関係を作る

1. 任命と昇進による同盟者の獲得(P108)
2. 便宜供与による同盟形成(P110)

4. コミュニケーションネットワークの中でどの位置にいるか

→例えばNPOやサークルに入ったら、進んで幹事役や書記役をひきうけ、コミュニケーションネットワークの中心に入れるようにすることで、パワーを得ることができる

5. 公式権限、評判、実績

有名なスタンリー・ミルグラムの実験によって明らかになった、権威に対する人々の盲目的な服従は役職に対しても発生する。

リーダーシップ系の理論であまり触れられないことの一つとして役職がある。しかし役職は大きなパワーの源である。パワーはその人に後光のように自動的についてくるものではない。(リーダーシップの発揮に役職が重要だと言ってしまっては、リーダーシップの理論にならない、ということも理由だとは思うが)


以前の部下の一人に、上役のプレゼンで外部の人が感動しているのを見て、「自分もできるようになるのだろうか」と不安になっていた人がいた。しかし正直、彼と上役を比べた時に人間としての戦闘能力は劣っていない、と私は感じていた。仮に、同じ新入社員であったら結構負けていないのではないか、と思う。ただ、若いので経験がないだけだ。そういう人でも役職によってつく説得力と本当の実力を見誤って、自信をなくしてしまうことがある。


役職が高いと、みんながその人に敬意を払うし、それが信頼の根拠として認識されるので同じ言葉を発していても重みが変わってしまう。だからもしあなたが、転職を考えていて次の会社でどのような職を得ようとも、できるだけ役職は上げておいたほうがいい。


そして、若い人たちは上の人がとてつもなくすごく見えても、それが実力から来ているのか役職から来ているのかをしっかり見極めるべきだ。その人のパワーの源泉を知ることは自分自身の成長にとって最も重要なことの一つだ。自分のことは相手という相対的なメジャーがあって初めてよく理解できる。上司はその意味で非常に重要な存在である。


<パワーを持つ人たちの特性>

パワー欲求、達成欲求等のパーソナリティ特性を調べても意味がない
1. 活力、忍耐力、肉体的スタミナ
2. 自分の活力を集中させ、努力をむだにしないようにする能力
3. 相手を読み、理解できる感受性
4. 柔軟性(特に自分の目標を達成するためにいろいろな手段を選択することに関して)
5. 必要な場合は対立や衝突と対峙する意欲(しかるべき水準の性格的タフさ)

パワーとは抵抗を乗り越えて、自分の求めることを他者に行わせる能力(P185)

→鍵は「ヤマアラシ」になること、厄介なやつだという評価を得ることだ(P187)

6. 少なくとも1時的には自分のエゴを隠す能力、他者からの援助と指示を得るために良い部下やチームプレーヤーを演じる能力


等々、このイシューにについて考える時に参考になる多くの実験や事例の紹介がされている。ビジョンを作り込んだり、内発的動機付けに注目してメンバーを動機づける方向の理論、メソッドが多い昨今において、「マキャベリズム」的な統制関係やパワーの観点から組織を考える本はめずらしく、この視点をもつためにこの著者の本は1冊は読んでおいたほうが言いように思う。


ただ、どの問題に対しても言えることだが、パワーを構築(本書やマキャベリズムなど)することに留意するスタイルでいこうと、ビジョンで人を引っ張ろうと、要はそれが「状況に合っているかどうか」が最も重要なことだ。本書においてはこの点について「パワーを失う理由」の項目で下記のように書かれている。

パワー喪失を避けるために、環境の微妙な変化に、折に触れ注意し、特定のスタイル、特定の活動セット、特定のアプローチが効果的なのは、特定の時代の慣習や関心と心と合っているからなのだと認識する必要がある。(P331)
マネジメントに絶対正しい答えはない。よいマネジメントたらんとする人にとって、必要なのは正しい現状認識をするだけの知識と経験を身につけ、その判断と自らの信念から一つ一つの実行プランを粛々とやっていくことなのだと思う。



原書は下記
Managing With Power: Politics and Influence in Organizations

0 件のコメント:

コメントを投稿